第10回2015年5月7日放送
まず、屋根の構造について、お話したいと思います。以前の放送で、屋根勾配について詳しくお話ししましたが、屋根勾配というのは屋根の傾きの度合いのことです。その度合いは、屋根材の種類と形状や、地域の平均風速、降雨量、積雪量などの気象条件を考慮して決められるのが一般的です。が、屋根の傾きは住宅のためにも、住む人間の為にも、ある程度確保しておきたいものです。
昨今では、屋根勾配の小さい住宅が大変増えているのですが、雨漏りにお悩みのケースで多いのが、屋根勾配の小さいお宅と言い切ってしまってもよいと思います。
屋根勾配が大きいことのメリットのひとつは、屋根に傾斜がつくことにより、屋根裏空間が広くとれて、その分住宅の断熱効果が上がります。たとえば夏の晴れの日中、屋根は太陽に照らされ続けています。僕らは屋根に上がることがありますが、夏は火傷するくらい屋根材が熱くなっています。屋根裏の空間が狭いと、暖まった空気はそのまま生活空間に影響してしまいます。夏、1階より2階の方が暑いというお宅は、屋根勾配が小さいお宅が多いでしょう。
もうひとつのメリットは、最大のメリットですが、屋根勾配を大きくすると、屋根・住宅の耐久性が高まることです。特に、雨漏りのリスクは圧倒的に低くなります。屋根勾配が大きい方が雨水が流れ落ちやすくなり、雨水が屋根に滞留する時間が短くなるので、屋根材の塗装はがれや苔の発生などを遅らせることができます。また雨水が屋根に滞留する時間が短いので、瓦の下にあるルーフィングや野地板の腐食による雨漏りの危険性はとても低くなります。屋根勾配が小さいと、傾斜が緩い為にどうしても雨水の滞留時間は長くなります。その結果、瓦の傷みやルーフィング・野地板など屋根材は腐食しやすい、傷みは早く進んでしまいます。従来、雨の多い日本では屋根勾配は4寸勾配とられている住宅が主流で、最低でも3.5寸勾配必要だという考え方でした。これは当たり前のことなのですが、当たり前のことが全く無視されている、考えられていないというのが住宅業界の現状です。
では、なぜ最近の住宅は屋根勾配が小さいお宅が多いのでしょうか?
同じ広さの住宅で比べると、屋根勾配を大きくつけた場合と、屋根勾配をつけない場合と、屋根面積が変わってきますし、体積も変わります。底辺が同じ長さの三角形で、頂点の高さを変えると、二辺の長さが変わります。これと同じことで、屋根勾配を大きくつけた場合は、勾配をつけない場合より屋根面積が広くなり、屋根材の重さが増します。屋根の重さが増すことはデメリットといえばいえないこともありませんが、必要な材料の重さですので、それらを支えられる土台をしっかりと作ればよいのです。しかし、土台をしっかり作るとなると手間も材料も当然増えます。「屋根は軽い方が耐震上安心です」といって、大手ハウスメーカーはこぞって屋根勾配の小さい緩やかな屋根にしています。消費者も、「耐震」と言われると、非常に受け入れやすい心理になってしまうようです。土台や構造を強くする努力はせず、屋根勾配を小さく緩くして軽くするのは、ほんとうに耐震のためでしょうか?
実は、家の値段というのは、坪単価で計算するため、1階と2階を横にならべて上から見た広さで計算されます。面積で表示され、体積表示される事はまずありません。
屋根勾配を大きくすればするだけ、屋根の面積は広くなり更に小屋裏の体積も増える分、使用する瓦や木材などの材料も手間も増えますが、坪単価の計算では真上から見た面積での計算なので、値段に反映されません。屋根に勾配をつけると、業者にとって、損になるのです。このような、業者側の本音の結果、屋根勾配が緩やかな住宅が増えているのです。決して「耐震のためには屋根を軽くする方がいい」という言葉に惑わされないでほしいと思います。
この質問者様のお宅の状況は、根本的に屋根勾配が問題であるかどうかは、見てみないことにはなんとも言えませんが、とりあえず1階、2階のどちらから雨漏りしているかで我々の対処・アドバイスも変わってきます。
1階から漏っている場合は比較的対処しやすいです。1階部分に雨漏りが見られる場合、9割以上が2階の外壁と1階の屋根の接合部分から漏っているケースです。恐らくこのケースではないかと思うのですが、この場合、瓦を替えても当然雨漏りは解消しません。これはむしろ塗装の問題で、瓦屋根部分といわゆる壁の水切りの接合部分をきちんとシーリングして上から塗装をかけると。こういったケースであれば費用対効果も高く、雨漏りを防ぎやすいケースであると思います。