第07回2015年4月16日放送
たとえば住宅機器であれば、こういった価格別の提案は可能です。様々なランクの選択肢を提示して、メリット&デメリットを比較した上で、予算との兼ね合いでお客様が選ぶことができます。500万円のキッチンにするか、50万円のキッチンにするかはお客様の懐具合で、お客様自身が選ぶことが、当然できるわけです。
しかし、住宅塗装ではそのような選び方は不可能ですし、ナンセンスなのです。家は一件しかないのに、その一件に対して数種類の塗料別見積もりを持ってこられたら、その時点でその業者は「おかしいな?」と思ってもよいかも知れません。
塗料に順位、ランクをつけていること自体おかしいのです。塗料の名前を見てわかるように、工法であったり、化合物名や元素名であったりと、次元の違うものを同列に並べていることに疑問を感じる方も多いと思います。たとえばフッ素は元素であり、光触媒は化学変化の形態であり、全く次元が違うのですが、これらを同列に並べて、ましてそこに上下のランクをつけているというのが、我々プロからすると、大変理解しがたいのです。それらを提示して素人であるお客様に、さぁお選び下さいと選択させるというのは、大変乱暴な営業方法であるといってもよいと思います。
実は塗装業者であっても、塗料の裏に書いてある仕様書であるとか、そういったものを見たことがない、見てもわからない、といった程度の知識しか持たない業者もいるわけです。そのような、業者自身が素人以下の知識しか持ち合わせていない場合にこのような見積書を使う、という傾向があるようです。
本来であれば、住宅塗装には、選択肢はたくさん有り得ません。多少のグレードはあったとしても、ウレタンか、シリコンか、を価格でお客様が選ぶようなことはできないのです。というより、そんなことは決してしてはならないのです。
塗料の世界は化学分野であり、塗料メーカーは日々、様々な塗料を開発しています。どうすればきちんと付着が持続するか、膨れや剥離がおこるメカニズムなどを研究し、美しく長持ちしつつ塗られた対象物の状態を保護・維持するような塗料が研究開発されています。どのような条件で塗装するのがよいか、どのような下塗り材をどのくらい、塗布したらよいか。塗る前にはどのような下地処理が必要か。人体への影響はあるかないか、あるとしたらどの程度かなどなど…。
研究して出来上がった塗料の能力がきちんと発揮されるために、どういった条件を守って塗布されるべきかなど細かく記述されているのが、仕様書というものです。作業者への注意喚起なども記載されています。
このように塗料製品は、膨大に開発されており、シリコン系塗料だけでも数百種類以上存在します。種類は様々にあり、値段もピンキリで、ものによっては倍くらいする価格のものもあります。シリコン系塗料とひとくちにいっても、目的や用途や使い方などが様々あるわけです。
それをアクリル、シリコン、ウレタン系などと同列に並べて記述している、さらにランクが上とか下とかいうような意味合いに使われているのが、我々から見ると全く意味不明なのです。しかし、こういった見積書が巷で出回っている上に、まかり通っているというのですから、本当に残念なことです。
様々な何千種類もある塗料の中から、その住宅の建材の種類、さらに劣化の状況、以前塗られている塗料…などを総合的に見て、下塗り材と上塗り材を選択する。それは化学的な塗料の知識を持ち、実際に経験を積んでいる我々プロの仕事であると考えています。
僕らは新しい塗料が出るたびに、メーカーまで行って、直接質問をしたりするのですね。営業の話を鵜呑みにはせず、塗料の仕様書を見ながら開発者や技術者に質問したりして、できる限り調べて検証するという作業をします。
こういったことを、お客様ができるわけがない。ですから膨大な塗料の中から、お客様の住宅に合った塗料を、我々が代わりに選択する、というのは我々プロがやるべき仕事だと思っています。プロで専門家であるから、塗料の決定ができる、この塗料がいいと勧められる、そういったことをするには根拠が必要です。なんの根拠も知識もなしにはできないことです。